OR 学会で面白かった発表の 3つ目です。
これはゲーム理論に関わる話題で、交渉の問題を扱っています。
大阪大学の花登駿介さんの発表でした。
スポーツ選手と、その選手が所属するチームの間で、年俸をいくらにするかの交渉を、代理人を立てて行うとします。選手にとっては高い水準の年俸、チームにとっては低い水準の年俸が理想的です。
しかし、もし仮に選手側の代理人が、交渉の結果、期待よりも低水準の利益しか得られなかったとすると、代理人は手腕を疑われ、評判を落とすリスクがあります。もちろん、チーム側の代理人にとっても同様です。
つまり、交渉者(代理人)にとっては、要求を撤回することはコストがかかると言えます。
しかし、従来の研究では、この撤回費用というものは考慮されていませんでした。
花登さんの研究は、このような撤回費用を考慮したモデルを作り、仲裁制度、撤回費用が交渉の結果に与える影響について分析することを目的としています。ここにもナッシュ均衡なるものが現れました。
この研究では、プレイヤー A, B を考え、利益 θ を A, B の間で分配することを考えます。
A の要求額を Z_A とし、B の要求額を Z_B とします。
Z_A + Z_B ≦ θ の時は、A と B はそれぞれ自分たちの要求額 Z_A、Z_B を得て、交渉は終了します。
問題は Z_A + Z_B > θ の時であり、この時はそのままでは A と B の合意が得られませんから、仲裁者が入って仲裁をします。
この研究では、Final-Offer Arbitration によって、θの配分を決めます。仲裁者は A、B が要求した配分の (Z_A, θ-Z_A), (Z_B, θ-Z_B) のうち、仲裁者自身が最も妥当と考える配分 (x_A, x_B) に近い方を選択して、A、B に提示します。
さて、ここで、確率が出てきます。仲裁者が最も妥当と考える配分 (x_A, x_B) は確率的に決定されます。その時の分布関数 F は、確率密度関数を持つと仮定されていました。
今回の花登さんの発表では、F として一様分布を扱っていました。
この具体的な F を分析することで、最初に述べた『撤回費用(コスト)』の大きさが評価される、というのが発表の主眼でした。
花登さんの分析によると、次のことが示唆されていました:
[1] A, B の一方のプレイヤーの撤回費用が十分大きい時、仲裁は行われない。撤回費用が大きいプレイヤーにとっては、仲裁で低水準な配分が採用されると、当初の要求から大きくかけ離れてしまい、費用が大きくなる。したがって、仲裁に進むリスクを避け、仲裁に進む前に合意すると考えられる。
[2] A、B 両プレイヤーの撤回費用が小さいと、仲裁が行われる。撤回費用が小さいため、たとえ仲裁で低水準な配分が採用される結果となっても、費用リスクが少ない。よって、仲裁に進むことをためらわないため、両者は大きな要求を行う。
花登さんの研究では、従来の研究では考慮されていなかった撤回費用につき、仲裁制度が交渉の結果に与える影響を論じています。
そこで、確率密度関数を持たない分布関数の場合はどうなるのか?と言うのが、謎の数学者・青いわしの率直な疑問でした。
これは花登さんの発表でも示唆されており、分布関数がもっと一般の場合はどうなるのか、という点も今後の課題でした。
確率密度関数を持たない分布関数というと何か病的なものを想像されがちですが、例えばグラフが跳躍を持つ分布関数などがそれに当てはまり、決して病的なものばかりではありません。
この点につき、花登さんとはちょっとした、生産的なやりとりがありました。
今後のこの分野の発展を祈ります。
参考文献: OR 学会 春季研究発表会, アブストラクト集
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